美術製作前夜(2024年2月~2025年1月)
映画研究会で森監督が特撮を作ると常々言っていたのでかなりゆきで関わることになった。特撮の美術に多少興味があり、他にやりそうな人もいなかったため担当した。美術については、立体造形や建築模型制作の経験があったため、比較的スムーズにできたと思う。照明、撮影、合成まで担当するつもりはなかったが、人手不足だったためやらざるを得なかった。
詳細な設定や脚本が決まる前は、シーンのスケッチ、ロケハン、建物の試作、セットの設計をしていた。限られた予算で最大効果を出せる量、質を考えたり、破壊する建物の部材の試作や材料の調達を進めていた。問題は継続して作業と保管ができるスペースで、初めの頃は大学の実習室や倉庫、教室を利用した時期があった。2024年12月にオリヲン座がある程度の広さがある部室に移動したため、そこで作業と保管をすることにした。参加していたのは合計で10人ほどで、作業内容はほとんど私が指示していた。
美術製作(2025年2月~10月)
2025年2月に脚本が定まってからは、どのシーンにどの造形物が映るかを分類しながら、美術の本設計を行った。建物とその配置は基本的に現実の京都駅前を模し、写真やGoogle Earth等を参考にしていた。CGであらかじめモデルを作ってカメラアングルを検討、同時に建物とアクション域を支える土台の配置も、撮影を行う部室横の半屋上の条件から決めた。
その後約1カ月は、建物と足場の制作を同時並行で進めた。土台は、限られた予算の範囲内で、着ぐるみアクションができる安定した構造が求められ、比較的慎重に考えた。2種類の木材板を計20枚ほど購入し、加工して高さ45cm程度の土台を10基作った。一方で、それを設置する半屋上は一面に10cmほどの厚さで石が敷き詰められていたので、使う範囲の石を除ける作業が発生した。アクション域以外の建物を置く部分の土台は荷重がかからないため段ボールで作り省力化した。
同時並行で進めていた建物の制作は、カメラの近くになりやすい京都駅付近のビルから進めていた。この辺りは複雑な形をした商業ビルが多く細かな造形が求められたのと、予算・運搬・保管の関係で、段ボールや紙といった柔軟な材料を選んだ。参加人数は以前から変わらず10人ほどだったが、作業が細分化していくにつれて徐々に私の指揮力が低下したため、ある程度各人の裁量に任せていた。特に看板制作は分隊化し、独立して動いていた。途中、段ボールの土台や地面がすべて風で霧散してしまったこともあり、フル稼働急ピッチで作業した。制作する建物の面を少なくするため、カメラの位置を制限し映らない部分は省略するなどの工夫も重ね、特撮セットでの撮影が開始するまでにはなんとか間に合った。
特撮セット撮影を終えた9〜10月にかけては、破壊される京都の製作を進めた。特徴的なのは北面のトラス構造であり、これがきれいに壊れることを目指した。本物の鉄骨らしく折れるようにするために、そして安価に作るために材料として割り箸を採用し、割いてはテープで繋いで格子にしていった。この頃の作業参加人数は4人ほどだったため、2週間ほどで集中的に製作し、撮影日の昼にようやく完成した。
下の動画は、作業の様子をメイキング映像的に編集したもの。
撮影(2025年2月~10月)
撮影担当としての作業は、事前に複数人が描いた画コンテを統合・修正しながら、撮影日ごとの画コンテ資料を作ることから始まった。ジオラマの設計と同時進行だったので写す範囲と造形する範囲との調整が自分一人で完結でき、効率が良かった。
2月に指揮所、3月にコックピット、4月以降は特撮パートを撮影した。撮影現場では画コンテや監督等の指示に従い、構図やカメラワークに関しては悩まないように心掛けた。その代わり計画したものは正確に再現すること、照明を自然に配置することに注力していた。主な使用機材は、当企画のために映像研究会が購入した中古のビデオカメラ。初期は私物の三脚も使っていました。4日以降は他の人の私物カメラを2台と、新しく入手した丈夫な作りの三脚を使用した。撮影した映像をリアルタイムで詳細に確認するためのモニターもあればよかったが、予算がなく諦めた。撮影後はなるべく早いうちに動画ファイルをクラウドで共有するように努めた。10月に特撮を終えた後は、合成する空や街の素材や冒頭の夜景を少人数で撮影した。
合成(2025年11月~12月)
合成は、屋内撮影素材に空を合成したり、被写体と背景が別々の素材を合成したり、画面に映り込んでいる余計なものを消したりする作業を担当した。撮影時に合成を見越して撮っていた素材などもあり、スムーズに作業に移ることができた。作業は11月の松ヶ崎祭(大学祭)での初公開時と、12月初めの自主怪獣映画選手権へのエントリー前に集中して行った。基本的には監督やCG統括の指示に従いながら、合成の違和感をできるだけなくしていくことを目指していた。ソフトは主にPremiere Proを使い、クロマキー合成とトリミング、キーフレームを駆使して地道に作業した。
振り返って
本格的な特撮は初めてのことなので、計画しても計画しきれない部分が多く、どこにどうこだわれば良いかがいまいち掴めなかった。しかし、それも初めから分かっていたものを、効率よく器用に進めるというよりも、できそうなことはやる、できていることはなるべく利用しつくすというような「もったいない」的マインドを持っていたように思う。
映像については画コンテから撮影、合成まですっと見ていたが、音声や音響、音楽が加わると一気に世界が立ち現れてきた感じがして、『GELEL』が何なのかようやく分かった気がした。もちろん制作者としては、良かった点もあれば反省することもたくさんあるが、一観客としては印象に残る良い作品だと思った。
自主選に行って感じたことは、「現実にないものを画面上で実現する」ことが特撮の本懐ではある一方で、それが反転した「実現しきれないものへの想像力を惹起する」こともまた特撮の力ではないかということだった。特に自主映画は実現されないことや不完全なことばかりだが、どの作品にもロマンチックな夢は等しく潜在している。これを引き出し、日常に問いかける作用を大事にしていきたい。